Style Beyond Function

FelisiからFerraresiへ、
受け継がれる
伝統と価値。

Ferraresi Director

Yasuto Kamoshita

Felisi Japan Conceptor

Keiji Kaneko

かつて重厚だったスーツスタイルは、時代とともに軽やかさを帯びてきました。その変化のなかで、ひとつの役割を果たしてきたFelisi。
ブランドの系譜を受け継ぎながら、新たなシリーズとして2025年に立ち上がったのがFerraresiです。
ディレクターの鴨志田康人と、Felisiの日本コンセプターである金子恵治が語るのは、機能や合理性だけでは語りきれない、スタイルとしてのバッグのあり方。
受け継がれる価値を、いかに現代へ接続していくのか。ふたりの対談を通して、その手がかりを探ります。

イタリア人が合わせると
かっこいい。
フランス人が持つと
かわいい。

金子

鴨志田さんがFelisiと出会ったのはいつ頃のことなんですか?

鴨志田

1990年代くらいだと思います。金子さんも当時ÉDIFICEで取り扱っていましたよね?

金子

はじめてFelisiを見たのが22~23歳くらいの頃なので、約30年前になります。

鴨志田

当時、UNITED ARROWSをはじめとしたセレクトショップですごく人気でしたよね。若いビジネスマンにとっての必需品になっていて。

金子

堅苦しいスーツスタイルから、ちょっと解放された時代でしたよね。

鴨志田

それまでのスーツスタイルは本当にクラシックな着こなしが主流で、バッグもオールレザーの重たいものがフィットしていました。それから軽やかなスタイルにトレンドも徐々に移行していって、ちょうどFelisiのようなバッグに注目が集まったんだと思います。

金子

ぼくがÉDIFICEに入ったときも、スタッフはみんな持ってましたね。当時はクラシコイタリアが全盛のときで、BARBAやFRAYといったシャツブランドと一緒にドレスのコーナーに置いてありました。それこそ、そうしたスタイルのブームの火付け役は鴨志田さんだと思うんですよ。

鴨志田

UNITED ARROWSが創業した1989年当時は、まだクラシコイタリアって全然認知されていなかったんですよ。いわゆるジャケットやスーツというのは英国製がいいとされていた時代で、イタリアといえばGIORGIO ARMANIのイメージ。だからデザイナーズブランドの印象なんです。クラシックなものづくりをしているアトリエがあるなんて、ほぼ知られていなかった。横浜の信濃屋さん、銀座のサンモトヤマさんといったお店に、そうしたイタリアの服がちょこちょこ置いてある程度で。

金子

さすが、老舗ですね。

鴨志田

そんな状況の中でイタリアのPitti Uomoに行ったら、もう目から鱗でしたね。あんなに優れたデザイン、クオリティの服を見たことがなかったから、ものすごい衝撃でした。UNITED ARROWSでも新しいことをやりたかったから、すぐに「コレだ」となって。それがはじまりだったんです。おしゃれな男性にも人気が出たし、話題として雑誌も取り上げてくれて。

金子

そんなストーリーがあったんですね。イギリスのものづくりに比べると、イタリアの服には軽さや柔らかさがあるじゃないですか。それが新鮮に映ったわけですよね。

鴨志田

やっぱり気候と国民性に違いがあって、イギリスには伝統を変えない美学があるし、丈夫なものを孫の代まで継承するっていうことに美徳を持っている。その一方でイタリアには新車がいちばんかっこいいとされる文化があると思うんですよ。あとは実際に気温も高くて暑い。ちょっと日本と似ているところがあるんですよね。イギリス製のものはかっこいいし憧れるんだけど、都会で着るには少し重たい。だからイタリアの服に一度袖を通してしまうと、抜け出せなくなるんです。

金子

軽くてフィットがいいですもんね。

鴨志田

そうですね。やっぱりモダンなんですよ。クラシックといえども、イタリアのクラシックは時代によってアップデートされていて鮮度が保たれているんです。

金子

イギリスの服はユニフォーム的な解釈で語ることができるけど、イタリアはまた違いますよね。特別な一日のために着る服を平気でつくるような人たちなので。根本的な考え方が祝祭的というか、「その一瞬が気持ちよければそれでいい」みたいな感覚がないと、ああいうものづくりって絶対できないと思うんです。

鴨志田

イタリアのサルトリア(仕立て屋)の中でも英国寄りの仕立てをする人がいれば、金子さんが仰るように、一回しか着ない服にすべての技術を注ぐような人もいるから、一概にはいえないですけどね。でも、相対的には本当に繊細で、風になびくような美しさを求めていますよね。そういった服に合わせるバッグとして、ナイロンを使ったカラフルなFelisiのアイテムがちょうどよくフィットしたんです。

金子

Felisiってイタリアのブランドなんだけど、どこかフレンチっぽさも、ぼくの中にはあるんです。

鴨志田

なんとなくわかります。フランス人って、伝統的にいろんなものをミックスしながら自分らしさを表現するんですよ。だけど、ノンシャランで気取らないムードがあって。そういうスタイルにも、Felisiのようなコンフォートなバッグが合うんだと思う。イタリア人が合わせるとかっこいいってなるんだけど、フランス人が持つとかわいいってなるというか。

金子

Felisiのバッグも元ネタとなるようなデザインソースがあるんだけど、きちんとアレンジされているから、カジュアルにも合わせやすくなっているんですよね。だからフレンチスタイルで、街中にも馴染んでしまうというか。

鴨志田

Felisiの創業地であるフェラーラの近くには、ボローニャっていう歴史のある街があるんです。あそこもいわゆるなイタリアっぽさというよりは、どこか知的で文化の香りが漂っているんです。きっと大学都市というのも関係しているんでしょうね。フランスらしさとはまた別なんだけど、どこか通じるものを感じます。

金子

ちょうどイタリアの真ん中ですよね。北と南でもスタイルが変わってくるから、そういう地理的なものも関係しているのかもしれないですね。

/

バッグを持つことで
所作が生まれる。

金子

ちなみに鴨志田さんが当時UNITED ARROWSでバイヤーをされていた頃に、持っていたFelisiのバッグって、どんなアイテムだったんですか?

鴨志田

キャンバス素材のアイテムでしたね。こんなことを言ったら元も子もないけど、そもそもぼくはバッグできるだけ持ちたくないんです(笑)。なるべく手ぶらがいい。Pitti Uomoの会場でも、暇つぶしに見にきたよっていうくらいの感覚でフラフラ歩きたいんです。

金子

その軽快さがいいわけですね。Ferraresiも、そういう方が手がけるバッグと考えると、めちゃくちゃ興味深くなります。今季の新作アイテムも、ショルダーなのにフラップがなくて、ある種不完全じゃないですか。そこがいまの話と勝手にリンクしてしまったんですけど。

鴨志田

いちばん最初につくったゲームバッグがあるじゃないですか。あの形はスーツに合わせても、上手にドレスダウンさせてくれる効果がある。もちろんカジュアルにも合わせられるし、真に汎用性が高いものには、スタイルの決め手となる力強さを秘めていると思うんです。バッグが主体性を持つというか、そういうものにしたかったんですよ。

金子

モノを収納する機能性というよりも、ネクタイを巻いたり、アクセサリーをつけたりして、スタイルを構築する装飾性が重要ということですか?

鴨志田

もちろん機能も大事ですが、バッグとして機能的になればなるほど物足りなくなるというか、味がなくなっていく感覚があって。スーツなんかも内ポケットがたくさん付いたり、いまはウォッシャブルなものもありますが、なんだか味気ないですよね。

金子

なるほど。なんかわかってきた気がします(笑)。

鴨志田

ただ最近もネクタイをしないスーツスタイルっていうのも増えてきていますよね。そういうときにFerraresiのバッグを持ちたい。なおかつポロシャツでも、Tシャツでも、デニムを穿いたときでも、カジュアルアップできるバッグでありたいんです。いまは専用のポケットがあったり、3wayで使えるものが増えていて、それはそれで現代の社会人にとって必要なものなのかもしれません。けれど、やっぱりそれじゃ物足りないという方も当然いらっしゃって。自分の役割としては、最低限の機能は必要だけど、それを持つことによって感じる高揚感の方を大事にしたいと思ってFerraresiを手がけていますね。

金子

とある雑誌でファッションのプロたちが、いろんなブランドのアイテムを試着して、品評するっていう企画があるんですが、その中でFerraresiのワンショルダーのバッグを置いてもらったんです。すると、「正解はわからないけど、なんか持ちたくなる」ってすごく評判がよくて。その反応って、今日の鴨志田さんの話とつながるというか、機能よりもスタイルなんですよね。ぼくはなで肩なので、肩で背負うと滑って落ちてきちゃうから、手で持つのがいいって紹介していて。そうやって所作が生まれるんですよ。

鴨志田

そうそう、所作がね。昔は革のブリーフケースを片手で持って、もう片方の手でBorsalinoのハットを被るかっこよさがありました。時代によってかっこよさの定義は変わるけど、バッグもそれに合わせて変化している。クラッチバッグを持ったり、それがリュックになったりして。スタイルの脇役として見られがちだけど、ある意味では時代を象徴するものでもあると思うんです。

自分が欲しい色の
バッグが
世の中に
あまりなかった。

金子

Ferraresiはスタイル重視のバッグではあるけれど、オールレザーなのに軽いところが使いやすいという意見も聞きますね。

鴨志田

美しさと機能のバランスを"美"のほうへ寄せているんだけど、最低限の機能はもちろんあるんです。

金子

この前イタリアへ行ったときに、フラップなしのショルダーを使わせてもらって、大きいカメラを持ったりするので、こういう蓋のない横長のバッグが案外使いやすかったんです。収納部もいい意味で簡素化されたつくりで、入れたものがサッと取り出せて、パッとしまえるところがいい。冬だったのでコートも着ているし、動きにくい中でのこのシンプルさがすごく快適でした。

鴨志田

ぼくは中にポーチを入れたりして使っていますね。

金子

色使いもすごくいいですよね。鴨志田さんらしいというか、大人のカラーリングだなって思うんです。

鴨志田

単純に自分の欲しい色のバッグが世の中にあまりなかったというのがありますね。やっぱりベーシックなものはみんなは持っているし、それ以外で「こんな色があったら、こういう組み合わせのときに使えるな」ということを考えて。とくにいまの時代は服がモノトーンだったり、アースカラーが多いですから、そこにマッチする色を考えて辿り着いた結果なんです。

金子

ボディとパイピングの色の組み合わせも絶妙ですよね。

鴨志田

あんまり深く考えてないんですよ(笑)。靴とソックスの色を合わせるように、「この色にはこれだな」っていう具合にやっているだけで。ワントーンだと、どうしてもベタッとしてしまうから、メインとなるボディの色に、挿し色として効果的なものをサブカラーに持ってきているだけなんですよ。

金子

今季の新作はアスファルトですよね。どういう経緯でこの色になったんですか?

鴨志田

そろそろ黒をやりましょうか、っていうことで(笑)。シリーズがスタートした頃は、黒はいつでも出せるから、とにかく最初はやりたい色でやらせてもらったんです。シーズンを重ねるごとにそれがイメージとしても浸透してきたので、そろそろ黒をやってもいいかなと思ったんですよ。ただ、やっぱりベタベタな黒にはしたくなかった。

金子

ちょっと捻りを入れたかったわけですね(笑)。

鴨志田

それでアスファルトにしたんですよ。これなら黒と似たような使い方ができるし、バッグにはありそうでない色じゃないかっていうことで。

金子

最近は革靴を履くことが多いので、レザーの黒とか茶色って、色合わせするときに敏感になっちゃうじゃないですか。でも、これだと気にせず使えるんです。

鴨志田

あとは今日のぼくのように色のあるスーツを着たときに、バッグまで色付きだとうるさいじゃないですか。だけど、このアスファルトならすぐに馴染むでしょう。そこを狙ってますね。

時間をかけてイメージ
変えていきたい。

金子

フェラーラにあるFelisiの工房でめちゃくちゃかっこいいアイテムを見つけたんですけど、実はそれ、Ferraresiのものだったんですよ。いろんなバッグがある中で、特別な存在に見えて。

鴨志田

本当に? それはうれしいな。

金子

一方でFelisiのアイテムも、過去のアーカイブと現在のプロダクトとでは、はっきりとした違いがあります。コンセプターとして、ブランドに関わるなかで自分に求められる役割は、“過去と現代をどう接続していくか”ということだと捉えているんです。自分自身がフィルターとなり、過去の魅力をいまの時代に落とし込む。今回、鴨志田さんとお話しする中で、その視点がよりクリアになりました。20年、30年前のコレクションには、いま見ても色褪せないよさがある一方で、現代の感覚で見るとどこか古く感じられる部分もある。だからこそ、その魅力をどうすれば現代に伝えられるのか。そこを丁寧に考え、形にしていきたいと思っています。

鴨志田

Felisiって、いまもかっこいいけど、もっともっとかっこいいブランドであるべきなんです。マーケットの中での印象をもっと押し上げたい。そうするには日本のマーケットに訴求するよりも、海外のこだわりをもった人たちに持ってもらわないといけない。だから時間をかけてイメージを変えていきたいですよね。

Yasuto Kamoshita’s Coordinate

「アースカラーのスーツに色のついたバッグはすこしうるさくなってしまうので、これくらいの大きさで、トーンも軽さのあるものがいい」と、ドレススタイルにFerraresiの新作ポーチを合わせる鴨志田さん。「装いのアクセントとして、ちょうどいいですよね」とのこと。アスファルトのボディに、持ち手のブラックがちょっとした引き締め役になっている。

「休日にちょっと出かけるときのコーディネートです」と話す鴨志田さんのカジュアルスタイル。軽さを感じるニットジャケットに、ルーズフィットのスラックスを合わせたリラックスした着こなしも、Ferraresiのバッグを合わせることでカジュアルアップ。「モノトーンに合わせるバッグとして、やっぱりアスファルトはいい色ですね」と、うれしそうに話す。

Keiji Kaneko's Coordinate

ヘビーデューティーなワークウェアをテーラードに落とし込んだ仕立てのいいジャケットと、品のあるニットポロ、ホワイトデニム、ローファーの組み合わせ。当初は「あえてアメリカンな服に、Ferraresiを合わせてみようと思った」という金子さんだが、「今回の話のあったフレンチミックスって、まさにこういうことですよね」と意気揚々に話す。色使いや素材の組み合わせの洒脱さが、まさにフレンチだ。

「アーカイブを参考にした珍しいデザインのデニムジャケットに、ブラックデニムのワークパンツを合わせました。完全にアメリカですね(笑)」という金子さんのモノトーンスタイル。「デニムジャケットはオンスが軽くて、シャツのような感じ」というが、「これにポーチを合わせるくらいが、軽さが強調できていい」と“スタイルの一部としての鞄”を体現している。

鴨志田康人

東京都生まれ。多摩美術大学卒業後、「BEAMS」を経て1989年に「UNITED ARROWS」の創業に参画。2007年に自身のブランド「Camoshita UNITED ARROWS」を立ち上げ、2013年にはアジア人として初のピッティ・イマジネ・ウオモ賞を受賞。現在はSS25にローンチしたFelisiのスペシャルラインFerraresiのディレクターとしても活躍し、シリーズのデザイン監修を通して現代的なエレガンスを提案している。

金子恵治

「ÉDIFICE」や「L'ECHOPPE」でのバイヤーを経て、現在は自身が手がける「FOUNDOUR」のディレクションや、外苑前にある「BOUTIQUE」のオーナーとして活躍。加えてファッションディレクターとして多方面で手腕を発揮し、2025年より「Felisi」の日本コンセプターも務める。

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